山田洋次の軌跡 by KIYO

<山田洋次の軌跡 第三部>連載第27回

第27話 「学校 III」
<概要>
「学校」「学校II」と、舞台を変えながら現代の学校教育について考えつづけ てきた山田洋次は、今度は職業訓練校を舞台に大人のラブストーリーを描いた。 それがこの「学校III」である。


<ストーリー>
零細企業のリストラにより失業してしまった小島紗和子(大竹しのぶ)。大手 証券会社の部長であったが50代のリストラにより失業した高野(小林稔侍)。 再就職を目指し、それぞれ入学したのが技術専門校であった。
紗和子には自閉症の息子富美男、通称トミーと二人暮らしの生活をしていた。 夫は過労死し、女手一つでトミーを育ててきたのだ。唯一の理解者は団地の隣 に住む、節(余貴美子)とその息子ぐらいであった。トミーは社会との接点を 持つために新聞配達をしていた。しかし雨の日に濡れた新聞の代わりに古新聞 を配ってしまい、その尻拭いのために配っていかなければならなかったり苦労 のし通しであった。
学校の授業がスタートした。ところがボイラー技師の勉強はちんぷんかんぷん で紗和子にはさっぱりわからない。一方の高野はプライドの高さと、再就職の ことで頭がいっぱいで、クラスにもなじめず、皆と気まずい関係にあった。
紗和子は叔母から再婚を勧められるが、そんな気はさらさらなかった。
ある時、教室の掃除当番をさぼった高野をクラスメイトがなじった。学校に引 き返してみると、紗和子がかわりに掃除をしていた。高野が掃除を引き受けて 紗和子を帰した。高野は掃除の途中、紗和子が教科書を忘れたことを発見する。 高野は妻と息子と別居していた。高野を訪ねてきた息子に、酔った高野は説教 をするが、息子は今更という感じである。
休みの日、高野は紗和子の家まで教科書を届けに行った。紗和子は高野がそん なことをする人間だとは思っていなかったのでびっくりするが、家に招いて話 してみると、意外にも人間味があり、好感をもった。
紗和子と高野の仲は急速に近づいていく。遅刻ばかりでクラスにうち解けなか った高野も勉強に精を出すようになった。
夏休みのある時、高野は別居中の妻(秋野暢子)に退職金を渡した帰り、紗和 子の一行と出会う。紗和子親子と節親子の四人で海水浴に一泊旅行に行くとい う。誘われた高野も一緒に海へ行くことにした。トミーと遊ぶ高野の姿を見て、 やはり父親が必要かと思う紗和子。
夏休みも終わり、勉強も難しくなっていた頃、学校で授業を受けていた紗和子 の元に、トミーが交通事故にあったとの知らせが届く。幸いトミーの命に別状 はなかったものの、看病のために学校に行けなくなった紗和子。そんな紗和子 の力になっていたのが高野だった。抱き合う二人。
トミーの怪我も回復し、退院したころ、学園祭だった。紗和子はトミーを連れ て久しぶりに学校へ行く。皆と再会し、楽しいひとときを過ごしたのだった。 いよいよボイラー技師の試験の日がやってきた。紗和子は仲間の手助けもあり、 何とか無事試験を終え、合格した。高野も同様に合格し、卒業式の日の夜に二 人だけでお祝いしようと約束する。
卒業式の日、紗和子は夜遅くなることをトミーに告げるが、トミーは愚図いて 納得しない。何とか言い含めて卒業式に出るが、高野がいない。連絡しても電 話にも出ず、約束を反故にされて失意の紗和子。そこへ高野から連絡が入る。 別居中の妻が事業に失敗したことが原因で自殺未遂を起こしたのだ。それを聞 いた紗和子は高野に別れることを告げた。
学校を卒業したそれぞれは、再就職先でがんばっていた。紗和子もなんとか努 力して新しい職場に慣れだした頃、定期診断で再検査の判定が出た。再検査の 結果乳ガンが発見される。手術の日、仲間は見舞いに来てくれた。その中に高 野の姿もあった。久しぶりの再会に二人は目を潤ませる。紗和子が手術室に運 ばれ手術が始まった。高野は手術の成功を祈るのだった。


<解説のような感想>
シリーズ前2作は主役を西田敏行が務めた連作としてとらえることが出来たが、 今回は大竹しのぶを主役に、鶴島緋沙子著「トミーの夕陽」を原作にした大人 の物語となった。つまり「学校」シリーズとはいえ、この作品における学校 (技術専門校)は物語の背景として登場するものであり、先生と生徒の関係は あくまで教える側と教えられる側の関係以上のものを描こうとしない。
では、この作品のテーマはどこにあるのか?中年へのエールである。
自閉症の息子を抱え、夫に先立たれた女性と、仕事に誇りを持っていたのに実 は会社から不必要な人間としてリストラされてしまった男の物語である。
それぞれにはそれぞれの難題が降りかかり続ける。
大竹しのぶ演ずる紗和子は理不尽ともいえる不幸の連続である。自閉症の息子 は新聞配達をしているが周囲から見れば時に奇矯な行動ともいえる振る舞いで そのたびにフォローをしなければならない。夫はすでに先立たれて頼るものは いない。苦労をしてボイラー技師の試験に通り、再就職を果たしたと思ったら、 乳ガンが発見されてしまう。
小林稔侍演ずる高野は、リストラ後、自分はまだまだやれるとプライドを持っ ていたが、実は誰も必要とされていなかったとわかり、プライドはずたずたに 引き裂かれる。
そんな二人が出会ってお互いを必要とするのである。
しかし、映画が暗くじめじめした印象を与えないのは、主役の二人が、結局の ところ“前向き”に行動しようとする心を失わないからである。
「息子」の頃、主人公の永瀬正敏が「仕事なんていくらでもあるんだ」と父親 の三国連太郎に語る場面があったが、あれから数年のうちに、「仕事はいくら もない」状況が訪れてしまった。特に中高年の再就職などは難しいのは誰もが 知っていることである。
山田洋次はそういった人たちへのエールを、この作品で送ろうとしたのだろう。 そこに必要なものは、“前向きな”心であることを。

しかし、状況はさらに深刻さを増し、なんと大船撮影所の売却が発表される。
リストラされた人間たちへのエールを送るうち、自分たちがリストラの対象そ のものになってしまうとは、なんと皮肉な話だろう。

また、学校に対する問題もさらに深刻さを増している。“不登校”“学級崩壊 ”の文字が新聞に書かれない日はなく、未成年の犯罪も増加しつつある。

山田洋次は今一度原点に立ち返り、「なぜ学校に行くのか?」という根元的な 問題に立ち向かうことになった。そして大船撮影所最後の作品として。
それが「学校IV」である。


次回、「学校IV」に続く。


00/04/07(金) 05:10 KIYO(YRG02560)


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