山田洋次の軌跡 by KIYO

<山田洋次の軌跡 第三部>連載第24回

第24話 「学校 II」
<概要>
前作「学校」が予想以上の反響を呼び、また山田洋次自身の「学校」という作品 に対する思い入れも強かったのであろう。舞台を養護学校へ移し、再び世に問う こととなる。そして、続く「学校III」、準備中の「学校IV」へと連作されるき っかけともなった作品である。


<ストーリー>
冬のスキー場、別れて暮らす娘(浜崎あゆみ)と久々に再会したものの、難しい 年頃の娘から「ミュージシャンになりたい」と言われ、とまどう青山竜平(西田 敏行)。彼は竜別高等養護学校の教師をしており、学校ではリュー先生と呼ばれ 親しまれている。
学校に戻ったリュー先生の元へ、小林大輔、通称コバ先生(永瀬正敏)が連絡に 来た。生徒の佑矢(神戸浩)と高志(吉岡秀隆)が寮を抜け出して消えてしまっ たというのだ。リュー先生とコバ先生は二人を捜しに街へ行ってみた。駅員が旭 川行きの列車に乗ったところを目撃したというので、旭川へ向かう先生たち。
そのころ、高志は佑矢を連れて、安室奈美恵のコンサートに行ったのだ。安室の 大ファンである高志は大喜び、佑矢も初めてのコンサートにはしゃいでいた。
旭川へ向かっているリュー先生の頭によぎるのは、入学式から今までの、苦労の 連続のことだった。

高志が初めて養護学校へ来たとき、誰とも口を利かず、誰にも心を開こうともし なかった。佑矢もまた、母親以外には反抗し、暴れるばかりだった。リュー先生 のクラスには副担任の北川玲子、通称玲子先生(いしだあゆみ)と、教師に成り 立てのコバ先生の三人がやっていくこととなった。暴れる佑矢には誰かが常にい なければならない。そこでコバ先生が佑矢の担当としてそばにいることになった。
それからは佑矢とコバ先生との戦いの日々であった。学校中で暴れ、脱糞する佑 矢の世話をすることに、耐えられないコバ先生。元々養護学校での仕事を希望し ていなかった彼にとっては、失意の毎日だった。
二学期になったある時、仲間の生徒が書いた初めての作文を佑矢が破ってしまう。 それを見た高志が、叱りつけたのだ。初めて聞いた高志の言葉に驚きつつも喜ぶ 先生たち。それからは、高志は佑矢の兄貴分としてぐんぐん成長し、また佑矢も 高志の言うことには素直に聞くようになった。
二年生の時などは、高志が作文コンクールに入選し、大勢の前でスピーチが出来 るまでになったのだった。

旭川に着いたリュー先生とコバ先生は、コンサートのことを思い出し、会場まで 行ってみた。しかしコンサートはもう終わっており、二人の姿もなかった。
とりあえずビジネスホテルに泊まる先生たち。
また思い出すのは、高志の現場実習のことだった。

就職を目指す高志は、クリーニング工場で体験入所することになった。学校では 明るくなった高志だったが、工場ではそうも出来ず、孤独でいた。元々大勢の人 のいる中で、理解者も得られない状況ではうまく仕事も出来ようはずもない。
一週間ほどで、リュー先生は高志を引き取らざるを得なくなってしまった。
ひどく落ち込む高志。

ビジネスホテルで横になったリュー先生はコバ先生から転勤の願いを取り下げた ことを聞く。コバ先生はなんとか養護学校でやっていこうと決意したところだっ たのだ。
一方、高志と佑矢は、先に卒業しホテルに就職した木村のところを訪ねていた。 木村も社会にでて一生懸命働いていたが、苦労も人一倍味わっていることを知る 高志。
翌朝、高志と佑矢は木村の元を去った。学校に連絡を取ったが、高志は学校に戻 らないと言い残す。そして佑矢を一人学校に返そうとするが佑矢は高志から離れ ようとはしない。どことも分からない雪の中をさまよううち、熱気球をやってい る人たちと出会う二人。二人は生まれて初めて空へと舞い上がった。
学校からの連絡を受け、ホテルまで行ってみたリュー先生たちだったが、それか らの足取りが分からない。目撃を元に道を行くが、運転を誤り雪に突っ込んでし まう。すると、空から高志と佑矢の声が聞こえてきた。なんと気球に乗った二人 が自分たちの頭の上にいるではないか。ようやく再会する先生と高志と佑矢。
学校に戻り、校長からの説教も一通り済ませたものの、大冒険をしてきた二人の 晴れ晴れとした表情を見るにつけ、いったい自分がなにをしてきたのだろうと自 問する先生たち。
その夜、リュー先生は、娘のことについて、別れた妻へ手紙を書いた。娘に過剰 な期待をしてはいけない、と。
そして、あっという間に卒業式がやってきた。
涙する先生たち、そして生徒たち。社会に出る彼らにはこれからもっと辛く大変 な日々が待っているのだ。


<解説のような感想>
主人公を演じる先生役を、同じく西田敏行が演じているものの、今回は舞台が夜 間中学から養護学校に変わっている。おそらく「学校」を作るにあたり、さまざ まな学校に取材したのであろう。その過程で前作に入れることのできなかった部 分が多々あったに違いない。そこでこのような連作として制作しつづけることに なったのであろう。
さて、「学校II」は前作ほどの緊密な脚本というわけではないように感じ取れる。 それは「学校」がイノさんという作品全体を支えるだけのキャラクターを持って いたのに対し、「学校II」ではそこまでのキャラクターは存在しない。先生の方 も、新米教師のコバ先生を配置することによって、教師の側も悩める存在として の幅を持たせている。
また、「学校」がストレートに「幸福とは何か」という幸福談義にまで持ってい ったのに対し、「学校II」はそこまでのストーリーが集約していく展開にはなっ てはいない。
では、「学校II」は作品として失敗であるのか?いや、そう結論付けてしまうの は早計と思われる。
養護学校の中における、生徒たち一人一人が抱えている問題は、結論が出せるよ うなことはないのであろう。たとえ、学校の中でうまく自分が表現できるように なったとしても、それは社会に出てしまえばあっけなく吹き飛ばされてしまうよ うな弱いものでしかないかもしれない。社会では誰もが他人のことを理解してく れるとは限らないからであることは、観客のみんなが知っている。学校で明るく なったと思っていた高志が、現場実習で挫折を味わってしまうエピソードがそう だ。
ラストで卒業していく生徒たちにとって「幸福とは何か」と語らなくても、重く、 重すぎる現実がのしかかっているのだ。
風船が映画の冒頭とラストに飛んでいるのはなぜか?(わざわざCGを使ってま で!)そういう重い現実を背負いながらも、せめて『志は高く』舞い上がってい くようにという思いが込められているのではないだろうか。
(吉岡秀隆演じる生徒の名前が「高志」なのは、そのような理由ではないか、と 思うが、それは深読みのし過ぎだろうか?)


余談ながら、この映画で一番共感したのは、中村富十郎演じる校長である。本質 的にやさしい人間でありながら、叱るべき時にきちんと叱るというのは教育とし てとても重要なことだと思う。


<おまけ>
この映画のキャラクターネーミングはちょっと面白い。西田敏行のリュー先生は、 フルネームが青山竜平。もちろん、西田の物まねをしているダチョウ倶楽部の上 島竜兵があったことは想像にかたくない。いしだあゆみ演じる北川玲子先生は、 映画評論家の北川れい子氏からきているのではないだろうか。
また、西田の娘役を演じているのが「“浜崎”あゆみ」なのもなんだが、まして や「ミュージシャンになりたい」と宣言しているあたり、思わずにやりとしてし まう。
ついでに、高志が釣りをしているシーンを作っておいて、西田自身には釣りをさ せない、というあたりがまたにやりとしてしまう。


この作品のあと、山田洋次は「学校III」の準備を進めていたことであろう。
しかし、山田洋次にとって、いや松竹にとって、日本映画全体にとって重大な事 件が起きてしまう。
渥美清の死である。


次回、「虹をつかむ男」に続く。

99/10/17(日) 09:26 KIYO(YRG02560)


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